静かに、確かに。

日常の機微を綴ります。

ラストノート

 

 

萎びた枕元に 一筋の残り香 あなたが出て行って 丸一日

置いていかないで 一人にしないで そう呟いて深く顔を埋める

 

ラジオから流れるラブソングは 夏の恋を歌う 

決して色褪せることのない 夏の恋を歌う

 

思い出したのは静謐な空間

触れた髪の毛 揺らす鼓動 透けた瞳

トップノートは夏草の香り

 

嗚呼 深く 深く 深く 深く 落ちていくような

嗚呼 高く 高く 高く 高く 昇っていくような

舞い踊って 行方を晦ます

明日に香れ 純潔の花

 

 

 

脱ぎ捨てた服に 一筋の残り香 連絡が途絶えて 一週明け

悔やまないで 悲しまないで そう誓って拾い上げる

 

テレビから流れるニュースは 夏の恋をわらう

決して報われる事のない 夏の恋をわらう

 

思い出したのは無類の時間

繋いだ手 並べる歩幅 一つ傘の下

ミドルノートは雨粒の香り

 

嗚呼 深く 深く 深く 深く 落ちていくような

嗚呼 高く 高く 高く 高く 昇っていくような

散り乱れて 秩序が滲む

明日に香れ 忘却の花

 

 

 

一ヶ月が経ち 一年が経ち 季節が巡る 時代が巡る

君が居たのは確かなはずだった 記憶すら曖昧に滲んでいった

 

憂鬱な五月雨 煩わしいだけのマス・メディア

萎びた枕はここには無い 脱ぎ捨ての服はどこにもない

 

あんなに胸を離さなかった君さえ忘れてしまっていた

届いた手紙には押し花 久しい晴れ間の事だった

 

 

 

思い出したのは夏の恋

白い花 それを見つめる君の笑顔 君の泣き顔

 ラストノートは君影草 つまり 君の香り

 

嗚呼 深く 深く 深く 深く 落ちていくような

嗚呼 高く 高く 高く 高く 昇っていくような

笑って生きているのならそれで良い

明日に香れ 希望の花