静かに、確かに。

日常の機微を綴ります。

AM3:00

 

久々に話そうぜ 俺が珈琲を淹れるから
こうやって話すのはいつ振りだろうな
昨日の事のような 数年前の事のような
募る話があるんだ ゆっくりしていけよ

 


先に湯を沸かして 豆を粗く挽こう
どうだ 良い趣味してるだろ
お前は知らないよな 俺が珈琲を好きになった事
あれから随分 みんな変わったんだ

そういやアスカの事 覚えてるか
あんなに方向音痴で頼りなかったのに
今じゃ一児の母だ
俺は未だに道に迷ってるってのに

湯気が立ち 豆の香り
華やかな香りが部屋に立ち込める
美しい思い出と共に部屋に立ち込める
いいや悲しい思い出か
迷いと戸惑い 後悔と共に立ち込める

 

 

湯の温度は93℃ 豆は深煎りのグァテマラ
どうだ 手際が良いだろう
お前は知らないよな 俺のお決まりの淹れ方
拘りの強いところは変わってないんだ

そういやカツトシの事 覚えてるか
あいつだけは相も変わらず田舎モンだ
なんだか安心するよな
お前も変わらないでいてくれたら良かったのに

湯気が立ち 豆の香り
泥臭い過程を浮き彫りにする
泥臭い俺達の関係を浮き彫りにする
今は俺達と言えるのか
1人ぼっちの部屋に 浮き彫りになる

 

 

お前が居なくなってから
やけに珈琲が染みるようになったんだ

お前のせいにさせてくれよ
お前が居なくなったことはまだ認めていないんだ

お前のせいにさせてくれよ
お前が精一杯生きた事だけは認めているから

 

 

そういやユウト 覚えているか
今も珈琲淹れながら流しているぜ
一緒に泣きながら
お前が教えてくれた 大切な大切な歌

湯気が立ち 豆の香り
早く涙を拭けよって背中を押されて
崩れた積み木 積み重ねるように
俺は珈琲を淹れる
あんたへ届くように 捧げるように

 

湯気が立ち 豆の香り
そのひとつひとつが生活感を醸し出す
残された生活感を醸し出す
さながら故郷に吹く風
寂しいけれど 俺はそれが好きなんだ

 

 

有明行燈

 


純粋無垢な冬を夢想する

あたり一面が銀世界になって

二度と戻ることのない雪景色を空想する

 

 

願うのはいつだって闇の中にある光だけ

数奇的な田舎の夜空を思い浮かべて

幾何学的な都会の夜景に想いを馳せて

 


もうすぐほら朝焼けがやってくる

じきに太陽が笑顔を見せにくる

それを確認したら安心して眠りにつける

 


それまでほら昔話をしよう

それを星屑にして天井に散りばめよう

更待月は素知らぬ顔で寄り添ってくれている

 


深夜4時半を過ぎて 真夜中の峠を越えて

世界が寝惚け眼を擦って目覚める頃

僕は漸く瞼を落として眠りにつく

 

 

あきかぜ

枝先の葉が千切れる瞬間を
瞬きで見過ごした

君の目尻は切長で
懐かしい温かさと冷たさで

見惚れた僕の頭上を上滑ったのは
先ほど千切れた枯葉だった

 

僕は色付く前の紅葉が好きだった

 

木枯らし吹けや 桐一葉
笑う僕は 昼行灯

さすらば流離え 青天井
笑う君は 風来坊

空空

 

自傷的な空だ」と白い息を吐いた

10両編成に揺られる人々を見限る

この街を去るまで 残り数日

僕自身が脱輪するまで 残り数日

 

電車を降りると

冬の土の匂いは

僕にとどめを刺そうとする

僕にとどめを刺そうとする

 

差し迫った未来屑

押し黙った雨映え

それを愛でるだけの余生を

追いかけたいのだと

ようやく子どもになれた

僕自身の顔が綻ぶ

僕の顔が綻ぶ

 

それを打ち付ける夕立ち

さあいざ旅立ち

ビバインリビドー ※一部

 

機会を得られた瞬間に消失する

僕の性的倒錯 性的衝動

 

満ち引きというのはその程度のもの

実態なんか在りやしない

 

ビハインリビドー ビハインリビドー

 

淫らを汚さぬ獣に用は無い

 

 

狂うアノミー 出しゃばるラブソング

怖気付いた繊細さは置いていけ

 

駆け引きというのは所詮は俗物

蔑ろにされぬだけ上等

 

ビハインリビドー ビハインリビドー

 

規律を乱す事はさも美しい

 

 

薄汚れた街に住む僕が

薄汚れていない保証が一体どこにある

だとして薄汚れた僕が

薄汚れていない君を好きになどなるものか

 

狂おしい愛おしい欲情の塊

隠し通して貫くか 貫き通して隠すのか

薄汚れた東京は獣の群れで溢れ返る

 

日々

 

 

書き連ねる 日常の系譜

世の中への失望なんて

生への執着なんて

今更書き直す気にもなれなくて

 


何故だろう

満たそうとすればするほど

枯れていくのは 乾涸びていくのは

 


葉の末端から

徐々に色付き始める季節の儚さとか

大好きなあの子が

僕の知らない人と口付ける一抹の美しさとか

 


誰の目にも留まらずに

触れる事すら躊躇われる

 


そんな事ばかり僕は見ている

僕は見ている

そんな日々を僕は生きている

僕は生きている

 


愛している

 

 

結い文

 

月露に身を任せた
孤独の軋む影ふたつ

五感全てで愛したかった
‪声も匂いも瞳の色も
触れる肌も唇も

体温に溶けてしまった胸の内
華奢な指が髪に絡んだ

静謐なワンルーム
この先忘れる事が無いように
僕等は結び合ったのだ