静かに、確かに。

日常の機微を綴ります。

珈琲は嘘をつく

朝露に溶ける 夕霧に香る それを合図に鵯の群れが去っていく 想い出の中 貴方の声を飲み干しても 貴方の体温を飲み干しても ただ苦いだけの生活の隙間 この胸焼けはさっき飲んだ珈琲のせいだ 冷めるまでの180秒間 紡いだ文章すらも滲んでしまって 滴る後悔の…

失墜

それは嘴 漆喰の如く黒い嘴 ある時僕は思った 何よりも気高いその誇りと 何よりも大切な貴方の存在と その両方を失った僕に いったい何が残るのか それは嘴 鋒の如く鋭い嘴 ある時君は言った 何があっても貴方を信じている 何があっても味方でいる その言葉…

AM3:00

久々に話そうぜ 俺が珈琲を淹れるからこうやって話すのはいつ振りだろうな昨日の事のような 数年前の事のような募る話があるんだ ゆっくりしていけよ 先に湯を沸かして 豆を粗く挽こうどうだ 良い趣味してるだろお前は知らないよな 俺が珈琲を好きになった事…

有明行燈

純粋無垢な冬を夢想する あたり一面が銀世界になって 二度と戻ることのない雪景色を空想する 願うのはいつだって闇の中にある光だけ 数奇的な田舎の夜空を思い浮かべて 幾何学的な都会の夜景に想いを馳せて もうすぐほら朝焼けがやってくる じきに太陽が笑顔…

あきかぜ

枝先の葉が千切れる瞬間を瞬きで見過ごした 君の目尻は切長で懐かしい温かさと冷たさで 見惚れた僕の頭上を上滑ったのは先ほど千切れた枯葉だった 僕は色付く前の紅葉が好きだった 木枯らし吹けや 桐一葉笑う僕は 昼行灯 さすらば流離え 青天井笑う君は 風来…

空空

「自傷的な空だ」と白い息を吐いた 10両編成に揺られる人々を見限る この街を去るまで 残り数日 僕自身が脱輪するまで 残り数日 電車を降りると 冬の土の匂いは 僕にとどめを刺そうとする 僕にとどめを刺そうとする 差し迫った未来屑 押し黙った雨映え それ…

ビバインリビドー ※一部

機会を得られた瞬間に消失する 僕の性的倒錯 性的衝動 満ち引きというのはその程度のもの 実態なんか在りやしない ビハインリビドー ビハインリビドー 淫らを汚さぬ獣に用は無い 狂うアノミー 出しゃばるラブソング 怖気付いた繊細さは置いていけ 駆け引きと…

日々

書き連ねる 日常の系譜 世の中への失望なんて 生への執着なんて 今更書き直す気にもなれなくて 何故だろう 満たそうとすればするほど 枯れていくのは 乾涸びていくのは 葉の末端から 徐々に色付き始める季節の儚さとか 大好きなあの子が 僕の知らない人と口…

結い文

月露に身を任せた孤独の軋む影ふたつ 五感全てで愛したかった‪声も匂いも瞳の色も触れる肌も唇も 体温に溶けてしまった胸の内華奢な指が髪に絡んだ 静謐なワンルームでこの先忘れる事が無いように僕等は結び合ったのだ

悩みの種

静かな森に悩みの種がひとつ空から落ちて根を張って芽吹いた双葉 烏はそれをまんじりと見つめている幾つもの夜を盗んで抜け駆けしてきた彼が盗めもしないそれを愛おしそうに見つめている 晴れの日には嘴で水を汲み雨の日には羽を広げて傘になり風の日には足…

郷夢

故郷から 続く道片道 行ったきりこれが 旅ならまだ 中間地点 そうこれは 小休止 僕の 人生において家族との 関係において今だけは 忘れさせておくれ そう懇願していても 貴方達の姿は執拗に寝息を立てた目蓋の裏に 張り付いて離れない 「あなたは私だけの宝…

バイアス

悠然として空は静謐を湛え騒然として人々は情動に焦がれ 我ら右往左往と路頭を迷い辛くも一上一下を熟し 大義と遊戯とを取り違えては入道雲の真下で燥ぐ子どもの聲 辟易としたルサンチマン湿気った熱意はアルコールに溶け 相違点は唯一つ分解できるかできな…

空と言説

この世界にはもう少し期待したって良い例えば今日の晴れ空なんかは幾分僕等の心を穏やかにしてくれるだろう 笑った顔が見たいから僕らは互いに顔を向け合ったでも恥ずかしくて目を逸らして幼い空は笑い出した 春風 夏影 木漏れ日はほら 本の上で踊っている …

近視

‪ 僕の焦点距離は0.5メートル‬‪君と向き合うこの距離感‬ ‪少しでも遠退けばぼやけて霞んでしまうから‬‪少しでも顔を寄せて近づける‬ ‪でも君は煩わしいなんてぼやくから‬‪仕方なく僕はぼやけた世界に戻るんだ‬‪一人の世界に戻るんだ‬ ‪-2.00ディオプター‬‪逆…

夏のせい

「例年より 暑い夏になるでしょう」 テレビニュース 毎年恒例の常套句 いつになく重い身体 時間をかけて寝たとて取れない疲れ 月曜日の朝に引きずり 太陽の下 時間に追われて転がり出た 年季の入ったあの寝床 やはり良くないのだろうか そんなことばかり考え…

ラストノート

萎びた枕元に 一筋の残り香 あなたが出て行って 丸一日 置いていかないで 一人にしないで そう呟いて深く顔を埋める ラジオから流れるラブソングは 夏の恋を歌う 決して色褪せることのない 夏の恋を歌う 思い出したのは静謐な空間 触れた髪の毛 揺らす鼓動 …

ニセアカシア

死を唆す声を背中に聴く度 文字を起こす旅 貴方は忘れたと言うでしょう けれど私は覚えている 恨んでいるとか憎んでいるとか 感情はもはや形骸化して 空っぽの痛みだけが蝕んだまま 行きどころをなくした虚しさは そのまま心臓に巣食ってしまった ニセアカシ…

フライト

子どもの頃を思い出している 空を見ている 空ばかり見ている 大きく息を吸う 空には桜が舞う あの空より青かった僕らを思えば 随分遠くに来たもんだ 満足に伸ばせなかったこの手を 今こそ大きく振り返すのだ 小さく霞んでいく影 遠くに行っても見えるように …

冬の月

光が通り過ぎる 映った光景は僕だけのもの 君に見せられるのならどんなに良いだろう 淡い色彩 輪郭は景色と同化する 笑顔だけが浮き上がって 瞬きの度に揺れる 情動に身を任せるには 少し遅かったのかな ゆっくりと深く息を吸う 瞬きをする 冷たいくせに照ら…

だからと言って

だからといって 君の跡を追うつもりはない 夕焼けに顔を背けた 水面は燃えていた その時すでに確信していたよ さようなら 偽悪 虚言 しつらえたそれらに 首を絞められるのは水辺の鴨か白鳥か 事実はいつだって白状だ 必死に足掻いて手にした答えが 何の役に…

古びた靴

深夜0時 日付を跨いだ 帰路に着く喜びはとうに失せて 欠落したしたたかとすこやかと 狂った生活水準だけが僕の輪郭を形作った コンポーネントの錆びたクロスバイク 向かい風にギアを回すと 情けなくしなり声を上げる 北風はあからさまな悪意をもって 指先に…