2.13
梢が揺れた、それだけの事だ
2月上旬、空は曇っていた
河辺でキャッチボールをしている高校生くらいの男がふたり
その飛距離に呼応するように声を張っている
学校の事だろうか、部活動のことだろうか
土手を走る車の音に掻き消されて話の内容までは耳に届かない
それを遠くで眺めているのが僕だ
仕事の合間を縫って10、20分ほど落ち着いた河の流れを眺めるのが、月曜日の日課だ
要はサボっているというだけだが
社会人の10、20分が貴重なものだという叱責が頭の中で響く
逆に貴重だからこそこういう使い方をしているのだと顔を振った
世間の月曜日と僕の月曜日は少し認識が異なる
僕は不動産業界に勤めているから土日の山場を乗り切って、その間に溜まった訪問業務を熟す
言ってしまえば消化試合といったところだ
「ーあ」…梢が揺れる
キャッチボールをしていたふたりが慌てた様子で河の茂みに走っていく
どうやらボールを取り損ねたらしい
幸い河に流されるようなことはなかったようだが
戻ってきた彼らは投げる方向を河の流れに対して水平方向に移動して仕切り直した
ボールが革製のグローブにばしんと収まる音がして、
また声が張り上がる
そう、梢が揺れただけの些細なこと
気を留めるまでもなくて、違っていたと気が付いたのなら、自然と立ち直せばいい
「もうすぐ春か」
溜め息に似た独り言は誰の耳に留まるでもなく、僕の頭上を上滑った
エンジンを掛け、僕は仕事へと戻った