静かに、確かに。

日常の機微を綴ります。

100文字日記

8.11

模倣と模倣の掛け算から他に類を見ない結合が発現し世間に認知され 初めて個性足り得る 身から出た錆の成れの果てこそ個性だ人々は知る由も無くフィットニアの葉脈をなぞるばかり だがそれこそ個性が生まれる瞬間なのだ

8.10

音を立てて骨と骨が軋み絡む体温 崩れた前髪思惑の巧妙 魅惑の軽妙 吉祥寺の情事 一存的な見せ掛け逆らう浮力は僕の不慮を浮き彫りにする 僕だけでしょうか並べる肩が歪だと思うのは 自ずと分かる 宵の口 鳥の口端 言葉の端々

8.9

漣 葉擦れ 宛らそれはこの星の呼吸のようでともすれば吹き抜ける風は血潮だろうかそれに僕は両手両腕を広げている 暑さに溶ける誘蛾灯対価を体温で精算する頃には湿気った後悔は灼熱の海に投げ捨てた 東京湾は今日も曇り

8.8

少年は背にナイフを忍ばせる彼を満たせるものなどこの世に非らずと言いたげな表情で見え隠れする反社会性 追い求める理想と立ち開かる真実とその補集合としての虚無とが板挟むのは彼の欲情であり過去の僕自身であった

8.7

寝息転がし 文字捏ねくり回し踏むだけ踏み潰した音韻 見たくない 見たくなんかない月が丸いのも 母の目尻も 君が笑うのも同じ轍を踏みそうだ 引き返せ衝動に腕が捥げ バランスを失い 倒れ込む ここはベッドの上 あれは夏の悪夢

8.6

夏が嫌いと呟いて嫌いな夏ばかりを詩にして遠回しな想いの丈を持て余して 私が言葉を語る程にその本質は捉えどころを失う私が夏を嫌う最たる所以 陽だまりの中 朗らかとして 夕涼みそうして私は筆を走らせる夏を走らせる

8.5

口呼吸に吹き出す汗 上下する肩幅並走するギンヤンマと恋ヶ窪閻魔堂霊園 西国分寺駅はやけに白けてきまり悪い僕は汗拭うや否や自販機のイオンウォーターに縋りつく こんな事ならと嘯く僕を可笑しいと君と夏が笑ったなら

8.4

久しい友に 優しい貴方に 知らない未来に 期待意気込み 雨脚早まり じりじり日捲り柵み泥濘み 足に絡まり 未定未定 この生涯その所在行き当たりばったり 泣き笑い雨空に 祈り誓い幸先この日に 種明かし 全てお芝居 これにてお終い

8.3

向かい風に髪が靡いたまるで透明な馬が空を駆けるよう 僕はと言えば大凡その馬の蹄が抉る土の如く生活に追われ不釣り合いを自覚しながら炎天下の陽炎として遠く待ち焦がれ その刹那を肯定する為だけに今日も生きるのだ

8.2

梅雨明けの入道雲と遠くに霞む雨柱膨れた向日葵の蕾と風に揺れる夏草 時間の流れの中 現実から乖離してもはや概念だけになってしまった過去の君を僕はずっと愛している 臨海公園に見た君の笑顔はもうここにはいないのだ

8.1

今日も僕は僕を殺す‬そうやって生き延びている‬ この心は どこまでが本心でどこまでが意地で どこまでが妥協で 自分自身の思考すら曖昧として 夜も眠れず勲章として残ったのは 眼の下の黒い三日月 僕はそれを ただ盗みたい

7.31

その日暮らしと日暮れのヒグラシ日雇いに紛れる人間紛い 病院に行くべきだだが病院へ行く自体が億劫で子どもが好きだだが子どもを見ると心に翳りを孕む 薬の切れた人間の皮を被ったジレンマ飼い慣らす日々さえ紛いもの

7.30

満ち引きが美しいのは砂浜に打ち付ける波間だけこの感情の起伏は実に煩わしい 空きっ腹に珈琲を注ぐこの吐き気が自己嫌悪に由来する事は僕にだって容易に想像出来る そうだ 換気をしよう開け放った窓 梅雨明けの風が吹く

7.29

祖母は言う その子は変だと母は感情的に反論した 身に覚えがある僕は必死に感情を拵えた全部芝居だ 身振り手振りもこの笑顔も 流る人混みを見送る手放し切れなかった張りぼての感情無害を装う仮面の下 行き先無い刃が潜む

7.28

腕時計は景色を刻む海を抜け 森を抜け 花火の下手を引く君の後ろ髪を見送った あれから僕の心はずっと雨模様 ネクタイで心を引き締める別離は僕の後悔ではない君の笑顔を見られない事を悔いている 東京駅は僕の心を濡らす

7.27

グラスの縁の艶をなぞって薄蒼色の色彩の中 朝惑う憂いは精々一条 僕には過剰 シーツに微か残る体温を惜しみながら注いだ水出しの珈琲 飲み干す愛別離苦 朝霞を払い除ける苦味 冷感に吹き出す結露それが滴るまで僅か秒読み

7.26

僕等は世界をありのままに知覚できない各器官に映り響いた虚像を覗き見するに過ぎない それに抱く感情それに付随する知見それまでの人生で培った経験則 納得出来るか出来ないかそれは僕等の得て来た価値観の答え合わせ

7.25

得る物と失う物 出会う事と別れる事それは片腕で存在する事は無く天秤に掛けられるものでも無くただ不躾に 強引に 押し付けられてしまう それを美しいと君が言う理不尽に価値を見出す事の愚かさをしかして 僕は羨んだのだ

7.24

夜露を呑んで 唄を数えて同期の崩れたサラウンドステレオずれる 歪む 世界が回る 失望すら美しいのは 満たされなさに焦がれるから呑みきれない 満たされない口から溢れて吐き出しても 僕は求める ‪君は誰だっけ 君は誰だっけ

7.23

性懲りも無く死にたいと思っているこんな人間に生まれちまったもんだから仕方がないさ 希死念慮は無遠慮だから 意味なんぞあるものか 理由なんぞあるものか真っ当に死ぬ為 過不足なく死ぬ為性懲りも無く生きる理由を探す

7.22

舌打ちが嫌い 曖昧な相槌が嫌い帰路に降る雨が嫌い 人混みの喧騒が嫌いアイドルが嫌い 母の目尻の皺が嫌い生乾きの匂いが嫌い 蒸し暑い夏の日が嫌い 器の小さい僕自身が嫌い君だけがいない世界が嫌い 嫌い という言葉が嫌い

7.21

見たくもないものは見えるのに見えないものが多すぎて人の気持ちだとか 世の中の理不尽だとか 見逃さないよう目は大きく開けるが中途半端にしか世界を知覚できない斜眼子が片目しか隠せない‬ように 僕の目に一丁字なし

7.20

雨の日の白樺の匂いが懐かしくってさそれが声を押し殺して笑う貴方のようでそれが涙を流して笑う貴方のようで 貴方はまた皺が増えたなんてぼやくそれをちゃんと綺麗だよって僕は伝えられただろうか 不器用でも ちゃんと

7.19

古傷は古傷のまま痕を残す 上から隠すように保湿して 湿布してそうして重ね上げた当たり前もたった一言で崩れてしまうもんだから 当たり前なんて脆いもんだ当たり前である内に大事にしなければ 寄る辺無い夜 やるせ無い夜

7.18

寄る辺ない詩歌に乗せる中等度の独自性度外視した精巧 荒削りの技巧捻れた唯識 老耄の戯論 ぐるぐるぐるぐる 死のロールモデル自己言及のパラドックス 身の程は弁えてるぜってホラを吹いて苛辣な愛想笑いは僕を誤魔化した

7.17

土砂降りの雨 君はと言えば雨具なんぞ無くともへっちゃらさとちゃんちゃら可笑しな笑みを浮かべる ぐしょ濡れの靴 僕はと言えば雨具さえ持て余して狼狽し雨粒の一つ一つにさえ辟易して溜息 十五年の歳月 君には敵わないな

7.16

子どもたちの騒ぎ聲に紛れて土に汚れたスーツの裾 つい昨日まで少年だったはずの僕の手を引く今日の少年の手は僕のよりも随分温かくて 生命の息吹 全力の生気 来週の日曜日行けぬ我が身の柵やこれが大人になると言う事か

7.15

白露が一切の翳りを孕まないように透き通って消え入りそうなファルセット 懐かしい影を呼んで今と重ねて淀みの中に沈み自覚的な利己を心の中だけで擽る 戻らない君を慈しむよう目だけは合わせずに耳だけをそっと欹てる

7.14

過不足差異に頭を抱える 初めて君と繋いだ手は未練を抱えてそれを知って君は 尚も愚直な瞳を向けその掛け替え無さに気が付く頃には僕は新しい未練を抱えていた 失って初めて気が付くのは喪失がマイナスでなくゼロだから

7.13

時間は負の加速度を内包して止まるものを風化させる一切の抒情は入る隙を失い叙事として連なる 待っていてくれるのは無機質的な死だけ 拒絶せよ停滞感を 求めよ変化を 抗え今を笑って生きる その為に 僕等は今日を笑えるか